人間は輝きたいんだ。輝かないと生きていけないんだ。
だから生きているうちに一度も輝けずに、今後も輝ける兆しが無い場合、死後に輝いて星になることを望むのだろう。
つまり人間は星になりたいのだ。人間は星にならないと生きていけないのだ。
では人間が星になるとは如何なることなのか?
「星になる」と聞いて、ジョン・レノンや石原裕次郎のように死後にもその名声が轟いて止まない……なんてそんな話ではない。人間は生きているうちにだって星になることができる。誰かに認められたり愛されたり、他者から必要とされたりすることで人間は生きながら輝き、星になれる。
しかし星になるのは簡単ではない。とりわけ「黒いシミ」と表現されるような人は星になるのに苦労を要する。
2年ほど前から、「黒いシミ」というスラングワードをネットで見かけるようになった。生前轗軻不遇で孤独死していく人々を黒いシミのような存在だと表現したニュース記事が話題となり、一部界隈でホットワードとなった。
彼らは生まれてきて一度も輝けず、黒いシミとして死んでいく。誰の記憶にも残らずに。
恐らく人間には誰しもそのリスクはある。そもそも人間は例外無く黒いシミのまま生まれてくるのだろう。その黒いシミは、誰かに選ばれたりすることで輝く。そして星になる。
だから生きているうちに星になれれば、死後に星になる必要はない。わざわざ望まない。
だが人が星になるというイベントは生前に限った話ではない。
黒いシミのような人は、生前に輝くことは困難である。
生前に輝けなければ、死後に星になるしかない。
人生が苦しみに満ちていて、なかなか星になれずに、希望が瀕死状態であると、死後に星になることを選ぶ。その方法はというと、前述の通り誰かに存在を知られる、認められるといったものだ。
昨今、映画『ジョーカー』と同質の事件が日本で増えている。全てがそうとは言いきれないが、「無敵の人」などと呼ばれる加害者たちもやはり星になりたかったのだろう。社会に復讐して、ニュースになる。そうすることで初めて自分の存在証明ができる。その時に初めて星になる。
東大で受験生を襲った少年は「事件を起こして死のうと思った」と供述した。彼も生きているうちに星になる兆しが見えなかったのだろう。だから「事件」と同時に星になることを選んだのだろう。死と同時に星になる。ただ死ぬだけでは星になれない。星になる方法が「事件を起こす」以外に無くなってしまう。そしてこの最悪な人生を終わらせる。そして死後に星になる……
自殺配信も同じだと思う。電車に飛び込むという行為は、誰を殺さずとも自爆テロの一種だと思う。首吊り配信も、「事件+死」と引き換えに星になる。誰かの記憶に残る死を。そして彼らは「伝説」になった。
ただ自殺するだけでは、苦しみに満ちた意味の無い黒いシミのままで終わるだけだから。
ここで2016年に自殺配信をした前田仁という男の、生前に書かれたブログのあとがきに当たる「おわりに」の部分を引用したい。
このホームページを作った理由を書きます。
確かに俺は、1988年7月24日から自殺したその日まで、この世界に存在していたけども、
人知れずこの世界から消えてしまうと、俺がこの世界に存在していた事実まで消えてしまうような気がして、
それが怖くて寂しくて、自殺が出来なかったんですね。だから俺は、俺がこの世界に存在していた証拠を残す方法を考えて、
自分の人生を書いたホームページをネット上に公開することを思い付いたんです。なぜなら、このホームページには俺の人生が書かれてるけども、
だからこのホームページを見た人の脳に俺の人生が記憶されるけども、
その記憶こそが、俺がこの世界に存在していた証拠になると思ったからです。…要するに、俺が自殺出来た理由は、
このホームページをここまで見てくれたあなたのお陰なんです。
本当に感謝します。ありがとうございました。さようなら。
彼も、「誰かの記憶に残る死」を行うこと以外の方法で、その人生で輝くことは不可能だったのだろう。
因みにこんなエントリを書いているぼくは黒いシミである。街を歩けばスターだらけである。眩しくて死にたくなる。
世の中には木村拓哉や大谷翔平のような生まれながらのスターもいれば、黒いシミ出身のスターもいる。一般人のスターもいれば、事件を起こしてスターになる黒いシミも、事件を起こしそうな黒いシミも、事件を起こさず死ぬ黒いシミもいる……
人知れず自殺して黒いシミになった人を思う。彼らは何のために生まれ、何のために苦しんできたのか。
星になれれば、その輝きの強さは人それぞれだが、星になれればもうそれで人生完了。コンプリート。大谷翔平や木村拓哉になれなくても満足できる。人間、星になれれば人生コンプリート。カーペンターズのTop of the Worldの気分になれる。
ぼくは生きているうちに人生をコンプリートできるのか。
人生がゲームオーバーしても身体が終わってくれない。人生がゲームオーバーして身体を安らかに終わらせることができたら、もう何の不満も無いのだが。敗者を無駄に生かすから事件の霰が止まない。
ぼくはこのままでは死んでも星になれない。空っぽの苦痛に満ちた才能も魅力も無い黒いシミである。どうすれば良いのか行き詰まっている。ぼくはこの先どうなるのか…… 自殺配信をする自分の映像が浮かぶ。その時は誰か見てくれるだろうか。